「ブランディング」の新指標は事業成長と密接

Design-lab

03-6869-1630

〒102-0074 東京都千代田区九段南1丁目5−6-5F

「ブランディング」の新指標は事業成長と密接

スタッフブログ

2026/08/26 「ブランディング」の新指標は事業成長と密接

 

弊社は20数年、クライアントのブランディングをサポートしてきましたが、誤解を招いているのではないかとも考える事があります。
誤解を招く原因のひとつに、「ブランディングを測る指標の問題」があるのではないかと思います。一般的にブランディングの測定指標は、事業成果との因果関係も相関関係も明確ではないのに、実務で妄信的に使われていることが課題なんだと考えます。スニーカーブランドで面白い資料がありましたのでご紹介します。
まずは、次のランキングを見てください。国内で流通する11のスニーカーブランドに関して、2021年12月にStrategy PartnersがM-Forceに依頼して実施したインターネット調査の結果に基づくものです。

1位はニューバランスで47.7%とほとんど半数に近い数値となっている。続いて2位はナイキが40.8%、3位がコンバースで28.6%、以下アディダス、アシックスが並んでいます。これが何の数値に基づくランキングがお分かりでしょうか。
答えは、「各ブランドのスニーカーの所有者に『次も同じブランドを買いたいか』を尋ねた結果」です。例えば、ニューバランスでは、同ブランドのスニーカーを所有している既存顧客のうち、47.7%が「次も同ブランドを買いたい」と答えました。ランキング上位のブランドはいずれも、既存顧客が「リピート購入する確率が高い」ブランドと言えます。この割合が高いほどロイヤルティーが高く、売上高・利益の面で安定的なブランドというわけです。逆に低いブランドは、既存顧客が離れていく結果を招きかねない状態である。
それでは、もう一つの指標を先ほどのランキングの項目に加えましょう。こちらも1位と2位は変わらないが、3位にアディダス(12.0%)が位置しています。ただ、1位のニューバランスでも18.1%で、全体的に最初の指標よりも数値が低い結果になっています。

 

こちらは調査対象者全体における、次回購入意向を示した人の割合です。ブランドは認知しているが、購入経験がない層の数値が高ければ、新規顧客の予備軍を多く抱えていると解釈できます。ブランドに対して良いイメージや評判が認識されていて、単に知っている人よりも「購買を見込める見込み顧客」である可能性が高いです。
この「次に買いたい人」の割合を、「NPI(ネクスト・パーチェス・インテンション=次回購買意向)」と呼日ます。前段の「既存顧客における『次も買いたい』人の割合」は、「u-NPI(ユーザー・ネクスト・パーチェス・インテンション=顧客内次回購買意向)」と名付けました。
NPIは認知度や好感度などの指標と比べて、事業成果であるマーケットシェア拡大に対してより有効な先行指標となることが示唆されます。

 

1. 「NPI」はどのようにして生まれたのか

今回掘り下げたいのは、多くのマーケターが課題を抱える「ブランディング」の測定指標です。一般的にブランディングの指標としては認知度、好感度、NPS(ネット・プロモーター・スコア)などがよく使われる。ただ、これらの数値が高くなっても、必ずしも事業がうまくいくわけではないと思います。それらの指標を否定するわけではないが、直接的に事業成果に結びつく指標だとは言いがたいのが事実ではないでしょうか。
各メディアでブランディングの成功例として紹介されるのは、どれも既に成功したブランドです。成功しているブランドは好感度や各種イメージの指標が高いため、それらの指標を高めれば売れるという誤解を招いています。“ブランディング活動”と称して、ブランドに対する認知度や好感度を獲得するための広告などを出稿し、狙い通りに認知度や特定のイメージが向上したとしても、ビジネスに反映されるとは限らないと思います。

 

2. ブランディングの新指標

ブランディングは事業成長のために行うマーケティング活動のひとつです。当然ブランディングの成功は事業成果に反映されるべきです。「ブランドが強い」「ブランディング投資をした」と話す一方で、売上や利益につながらないという事態はあってはいけません。
NPIは顧客全体の、u-NPIは既存顧客の次回購買への意思を数値化したものです。事業とは新規顧客を増やしながら既存顧客の継続率を向上させ離反率を下げること。積み上げ式に成長するもの。NPIが高ければ新規顧客の開拓が見込め、u-NPIが高ければ離反を招きにくいため、ブランドの成長性を示す先行指標になり得ます。今のところビジネスの先行指標としてNPIを超えるものは見つかっていません。そのブランディングの指標としての有効性を引き続き模索しています。
NPIおよびu-NPIをビジネスの先行指標とすれば、実施したスニーカーブランドの調査において両指標とも高かったニューバランスや他の上位ブランドは、その後の成長性が高かったと推察できます。また、男女別のスコアの比較や、本調査で同時に尋ねた各ブランドのイメージ(※履き心地が良い、デザインが良い、有名ブランドであるなど)と購買時に重視する項目(※に同じ)のスコアを比較することで、次の打ち手のヒントを得ることができます。

 

3. NPIやu-NPIの高低で導き出すブランドの現状

まず、この調査をどのような設計で行ったのかの調査概要を紹介します。本調査はインターネット調査を実施。20~69歳の男女計8244人から有効回答を得ました。具体的には、11のブランドについて以下の項目を尋ねた。ただし、(6)は共通して一度の回答のみとする。

(1)ブランド認知の有無
※以下(2)~(4)は、「知っている」と答えた人のみが対象
(2)購買経験の有無
(3)購買頻度(直近での購買を「3カ月以内」から「5年以上前」の8段階、購買頻度を「1年に3足以上」から   「5年に1足未満」の7段階で尋ね、それらを組み合わせて離反、一般、ロイヤルに分類)
(4)次回購買意向の有無
(5)そのブランドにどのようなイメージを持っているか(履き心地が良い、デザインが良い、有名ブランドで
あるなど、計29項目から複数回答)
(6)スニーカーの購買時にどのような項目を重視しているか(同上、計29項目から単一回答)

このうち(1)~(3)は、対象とする顧客全体を「未認知層/認知未購買層/離反層/一般顧客/ロイヤル顧客」の5層に分ける分析手法「5segs」作成時の質問項目です。さらに(4)でNPIの軸を加えて合計9層にしたものが「9segs」だが、本特集では5segsとNPI、u-NPIをベースに解説していきます。
( 1)~(4)の結果は以下の通りです。ニューバランスの「未認知」は18.1%となっているがこれは調査対象8244人のうち、ニューバランスブランドを知らない人の割合を示しています。「ロイヤル(5.5%)」は全体のうちで半年以内に再購入した人の割合で、ヘビーユーザーと見ます。
NPIは全体のうちで「次は(次も)買いたい」と答えた人の割合で、そもそもブランドを知らない未認知の人からは回答を得られないが、分母には未認知も含んでいます。また、u-NPIは、現在顧客である一般とロイヤルの人の中で次回購買意向が高い層の割合を足した値です。u-NPIがどれだけ高くてもそもそも認知度が低ければ、全体のうちで未認知の割合が大きくなるためNPIは低くなります。

(説明)各ブランドのNPIを対象とする顧客全体を「未認知層/認知未購買層/離反層/一般顧客/ロイヤル顧客」の5層に分ける分析手法「5segs」ごとに算出

 

ブランドに対して何らかのプラスの心理変化を起こし、事業成長に寄与する活動をブランディングだとするならば、その心理変化は近い将来に購買行動につながるはずです。ブランディング活動の結果、NPIやu-NPIが向上すれば購買行動につながる心理変化を起こせたと見なせます。
逆に、ブランドの認知度や好感度が高まってもNPIが向上しなければ、直接的には購買に結びつきにくかったと推察できます。もちろん目的が単純に「認知度の向上」だけであれば問題ないですが、その場合は他の施策で直接的に購買意向を高めなければ事業成果にはつながらないです。
以下にNPI、u-NPIの高低から、ブランドがどのような状態にあるかを4象限に整理しました。顧客分類とNPIの軸を組み合わせた調査は、各セグメントのNPIの比較や競合との比較を通して自社や競合の強みや弱みが見え、さまざまな仮説のヒントになります。

(説明) NPIとu-NPIのマトリクス  NPIとu-NPIの両方が高いと既存顧客の離反を上回る新規顧客を獲得でき、かつ継続率は高いため中長期的に利益を得られる理想的な状態

 

当然、NPIとu-NPIがともに高い状態が理想的だ(図の右上)。もしNPIは低いがu-NPIが高い場合(同右下)は、既存顧客のリピート意向が高いため一定期間は事業が安定するが、未購買層の次回購買意向が低いため新規顧客の獲得が見込みにくく、ブランドがニッチ化してやせ細ってしまう恐れがあります。既存顧客の満足度が高いのだから、その理由を突き止め、未購買の方々にアピールすることで収益化が見込める可能性があります。

 

4. なぜ「ブランディング」だけが取り残されたのか

一般的にブランド価値がどのように評価・計測されているのか説明します。1つは「ブランドエクイティ(ブランド資産)」調査が挙げられる。ブランドエクイティをどれだけ確立できているかを測る指標として、主にNPS、財務情報、各社独自の複雑なアルゴリズムを用いた「ブランドエクイティ指標」などが使われています。
ただブランドエクイティの概念は複雑なため、ブランド価値の測定にはシンプルにNPSや認知度、好感度を用いることも多いのが現状です。もしくは「先進的」「親しみやすい」といった、自社ブランドに込めたイメージがどれだけ市場に浸透しているかというイメージ調査もよく行われています。
しかしこれらの指標は事業成果とは因果関係と相関関係のどちらも証明されていません。また新規顧客と既存顧客のどちらに効果的かが判別できないため、施策に生かすヒントになりづらく、実際に新規顧客を獲得し既存顧客を育成するという事業成長のためのアクションに生かしきれていないというケースは多いのではないでしょうか。さらによくあるパターンとして企業側の「こういうイメージを持ってほしい」という願望も混ざってしまっている点も課題だと感じます。
デジタルの浸透によって、CVR(コンバージョン率)やCPA(顧客獲得単価)などの指標が広く使われるようになり、経営者からはマーケティング活動のKPI(重要業績評価指標)を厳しく追及されるようになっている。それなのにブランディングの領域は依然として「数値化が難しい」とされ、疑問を呈することが許されない聖域になりがちでもあります。おそらく最たる理由は経営者から見て、ブランディングがいまだに「よく分からないもの」になっているからではないでしょうか。ブランド価値が向上したかどうかの証明が容易でないことは実務経験で感じています。それが「売上や利益に結びついたか」の検証をしなくていい理由になるとは思わない。変わってきた機運があるのはテレビCMの効果検証。テレビCM投入後の認知率の上昇が「テレビCMのブランディング効果」とされてきました。だがスマートフォンが普及したことでより直接的に消費者の行動を捕捉可能になりました。テレビCMを見て商品に興味を持った人はすぐに検索する。興味がなければ検索もされない。テレビCMの放送による自社サイトのアクセスの増減などから、最終成果であるコンバージョンまでをつなげて費用対効果を捉えようとする動きが広がっているように思います。
NPIはこれまでの調査からマーケットシェアと相関が出ており、かつ半年後や1年後だと統計的優位性がより高くなる傾向が出ています。顧客の心理変化がまずあって、時間とともに購買行動につながっていると考えられます。1年半前の調査実施時点でNPI、u-NPIともに高いニューバランスは、現在では他ブランドよりビジネスが伸びている可能性が高いのではないでしょうか。

TOP