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サントリー「金麦」の常識外れのパッケージづくり 最重要KPIは「純粋想起」
エプロン姿で檀れいが叫び、料理と金麦を用意して夫の帰りを待つテレビCMが記憶に強く残っている人は中年以上の世代では少なくないはずです。 サントリーが2007年に発売した「金麦」。だが2026年現在、CMは劇的に変わっている。そんな中でも、通底するコンセプトはまったくぶれていないと思います。サントリーの「金麦」の歴史は、生活スタイルの多様化や環境の変化への対応の歴史。 2020年からの段階的な酒税改正によって、ビールとの価格差が小さくなったこともあり、縮小傾向にある新ジャンル市場。その中で、根強く売り上げを維持しているのがサントリーの「金麦」。 2022年以降、新ジャンルで上位をキープし、同社の国内ビール事業の販売数量で約半数を占める大黒柱。金麦の、ライフスタイルや市場の変化に翻弄され挑み続けたヒストリーから、サントリーのブランドの強さを解説します。
生活者の変化と共に歩んできた、金麦のパッケージの変遷
金麦が誕生したのは2007年。2003年の酒税法改正をきっかけに誕生した新ジャンル(第三のビール)としては後発の部類になります。第三のビールは発泡酒より税率が低く、販売価格が安かったこともあって、大衆的なイメージで外で元気に飲もうというブランドイメージを打ち出す競合商品が多かった。 そんな中、金麦はバラエティー豊かな「家庭の食事」に合う味わいを目指し、家庭の食卓でリラックスして飲むような「家時間の幸せ」を前面に押し出して差異化を図った。CMでは檀れいさんが演じる「理想の奥さん」が家で料理をつくり、夫の帰りを待つという家族像を表現して多くの人の印象に残り商品も大ヒット。一躍トップブランドに躍り出ました。
印象深い檀れい演じるCMシリーズ
ところがその後、共働き世帯の増加や一人飲みの浸透など、ライフスタイルの多様化が金麦を襲います。金麦の売り上げは伸び悩んだ。そこで2019年にはコミュニケーション施策を刷新。檀れいさんに加え、木村拓哉さんを新たに起用。共働き世帯の増加などにより変わりゆく夫婦関係に着目。時代に合わせた“幸せな食卓”のイメージをブラッシュアップすることで反響を呼んだ。結果、新規層の開拓にもつながり、売り上げは回復基調となりました。 苦難はまた来ます。2020年には前述のように酒税法の改正で新ジャンルの税率が上がって、ビールとの価格差が縮まっただけでなく、他のRTD商品との価格差が大きくなるという劇的な環境の変化が訪れました。そこで商品のリニューアルを機に、CMを石原さとみさんに大胆に変更。価格以外の強みとして金麦で使用している贅沢麦芽や天然水100%仕込といった物性をアピールし、“進化”を強力なメッセージとして訴求した。
市場に立ち向かう金麦。現在の強いブランドにつながる転機になったのが、発売15周年を迎えた2022年の大幅リニューアルです。改めて「日常的な家飲みにふさわしい新ジャンル」とは何かを追求。 背景にあったのはコロナ禍で意識されるようになった「おうち時間」の楽しみ方の変化だ。家飲みの機会が増えたことで自分のペースで飲める楽しさに気づいた消費者も多く、晩酌のスタイルも多様化していました。家族と一緒に楽しむだけでなく1人でゆっくり飲む時間というぜいたくさも重要な要素になりました。 理想の家庭像という外部的な幸福の型ではなく、1人での晩酌や夫婦それぞれの時間など日常にある幸福へとブランドを昇華させようとしました。
このリニューアルでまず目立ったのはパッケージデザインの変化です。ビールのパッケージデザインは横書きが基本になります。ビールが海外由来のものであることもあり英語表記でも日本語表記でも横書きが標準となっています。しかし金麦は2022年の刷新でこの定石に真っ向から立ち向かいました。ロゴを基本の横書きから縦書きに変更。消費者調査でも縦書きが支持されたこともありました。
ビール類のパッケージの常識を覆した縦書きパッケージ
縦書きのロゴと中身もリニューアルしたことを伝えるよう、素材や製法についてもその周囲に縦で表現したのも特徴です。さらにパッケージの基本を壊す取り組みは2024年のリニューアルでさらにグレードアップします。ビールのパッケージは横書きに加え、左右対称(シンメトリー)という世界共通の不文律が存在します。確かにビール売り場で見るとこのルールにのっとっている商品が目立ちます。そんな中、金麦は左右対称を捨てあえてアシンメトリー(左右非対称)にして余白のあるデザインを採用しました。
2024年のリニューアルでは、左右非対称のこれまた常識を更新したパッケージに刷新
目指したのは圧迫感のある高級スーツではなく、家でくつろぐときに着たい「仕立てのいいパジャマ」のイメージ。縦書きの落ち着いた印象に加え、アシンメトリーと余白によって日常の風景に溶け込み、オンからオフへと切り替える際のすっと力が抜けるようなリラックス感を演出しています。このイメージを表現できたのはデザイン部門を内製化しているというサントリーの強みだと思います。定石から外れながらも王道感を捨てないという相反するものを丁寧に表現していくには、デザイナーとの二人三脚が不可欠です。また、サントリーならではの「やってみなはれ」の精神から、自由な発想で挑戦できたと思います。
横書きから縦書きへ、そしてアシンメトリーへ。これだけ大胆変更をしたのにもかかわらず、購入者からは「以前からこのデザインだったような気がする」という反応が多かったと聞いています。単に目を引くだけのデザイン変更ではなく、きちんと金麦ブランドのDNAを受け継いでいると受け止められていることが分かります。「変わっているのに変わっていないように見える」のはとても大事なことだと思います。生活者とほどよい距離であり続けることこそ金麦の強さだと思います。時代や生活者のライフスタイルがどんどん変わっていく中で、ほどよい距離感を保ちながら常に伴走する。そのためにはお客さまの進化に合わせて前に進み続けることが大切だと思います。ブランド側が立ち止まってずっとそこに居続けると置いていかれてしまう。当たり前で居続けるために常に進化していくことが等距離を保つためには大切だと感じました。 変わらぬ関係性を続けるために変わり続ける覚悟。それはコミュニケーション施策でも同様です。2022年からはテレビCMや広告で、柳楽優弥さんと黒木華さんを起用。家飲みを前面に打ち出した「帰れば金麦」へと刷新しました。単なるタレント変更ではなく、ブランドが定義する「幸せ」の対象を、特定の役割から「個人のリラックスした時間」へとアップデートしたことで、消費者からも大きな共感を得ることに成功しました。
多くのブランドが短期的な売り上げやシェアに一喜一憂する中、金麦のブランドマネジメントは独特だと思います。売上などを見るのは当然だが最重視しているKPIは、ブランドコンセプトと直結する「毎日家で飲むのに最もふさわしいビール類は何か?」という問いにおける、「純粋想起」の割合だそう。2週間単位で消費者調査を行い追跡しているのも流石です。各社競合が多いビール類の中で、この指標での純粋想起は非常に高い順位をキープしているでしょう。金麦が選ばれる理由はこのコンセプトと密接に連動したイメージの醸成に成功していることが理由であることが分かります。とはいえ競争の激しい業界です。 売上に直結する短期施策も重要です。そのため対象商品の購入本数に応じて食器などがプレゼントされる「絶対もらえるキャンペーン」などの販促策も実施しています。これらの売上へのレスポンスが早い施策の場合、本来の情緒的なイメージが薄れがちで求めているイメージの純粋想起のスコアも一時的に下落するケースが多いと思います。そのため純粋想起を上げる広告施策をしっかり組み合わせ、ブランドの資産価値を高めるようにバランスを取っているんじゃないでしょうか。この長短のバランスを取り、相反する2兎を追う姿勢が金麦が選ばれ、そして売れ続ける理由だと感じます。
“思い出シリーズ”と呼ばれる季節限定シリーズも好調のようです
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エプロン姿で檀れいが叫び、料理と金麦を用意して夫の帰りを待つテレビCMが記憶に強く残っている人は中年以上の世代では少なくないはずです。
サントリーが2007年に発売した「金麦」。だが2026年現在、CMは劇的に変わっている。そんな中でも、通底するコンセプトはまったくぶれていないと思います。サントリーの「金麦」の歴史は、生活スタイルの多様化や環境の変化への対応の歴史。
2020年からの段階的な酒税改正によって、ビールとの価格差が小さくなったこともあり、縮小傾向にある新ジャンル市場。その中で、根強く売り上げを維持しているのがサントリーの「金麦」。
2022年以降、新ジャンルで上位をキープし、同社の国内ビール事業の販売数量で約半数を占める大黒柱。金麦の、ライフスタイルや市場の変化に翻弄され挑み続けたヒストリーから、サントリーのブランドの強さを解説します。
生活者の変化と共に歩んできた、金麦のパッケージの変遷
1. 檀れいCMでロケットスタート
金麦が誕生したのは2007年。2003年の酒税法改正をきっかけに誕生した新ジャンル(第三のビール)としては後発の部類になります。第三のビールは発泡酒より税率が低く、販売価格が安かったこともあって、大衆的なイメージで外で元気に飲もうというブランドイメージを打ち出す競合商品が多かった。
そんな中、金麦はバラエティー豊かな「家庭の食事」に合う味わいを目指し、家庭の食卓でリラックスして飲むような「家時間の幸せ」を前面に押し出して差異化を図った。CMでは檀れいさんが演じる「理想の奥さん」が家で料理をつくり、夫の帰りを待つという家族像を表現して多くの人の印象に残り商品も大ヒット。一躍トップブランドに躍り出ました。
印象深い檀れい演じるCMシリーズ
ところがその後、共働き世帯の増加や一人飲みの浸透など、ライフスタイルの多様化が金麦を襲います。金麦の売り上げは伸び悩んだ。そこで2019年にはコミュニケーション施策を刷新。檀れいさんに加え、木村拓哉さんを新たに起用。共働き世帯の増加などにより変わりゆく夫婦関係に着目。時代に合わせた“幸せな食卓”のイメージをブラッシュアップすることで反響を呼んだ。結果、新規層の開拓にもつながり、売り上げは回復基調となりました。
苦難はまた来ます。2020年には前述のように酒税法の改正で新ジャンルの税率が上がって、ビールとの価格差が縮まっただけでなく、他のRTD商品との価格差が大きくなるという劇的な環境の変化が訪れました。そこで商品のリニューアルを機に、CMを石原さとみさんに大胆に変更。価格以外の強みとして金麦で使用している贅沢麦芽や天然水100%仕込といった物性をアピールし、“進化”を強力なメッセージとして訴求した。
2. 転換点となった2022年の「ブランド再定義」
市場に立ち向かう金麦。現在の強いブランドにつながる転機になったのが、発売15周年を迎えた2022年の大幅リニューアルです。改めて「日常的な家飲みにふさわしい新ジャンル」とは何かを追求。
背景にあったのはコロナ禍で意識されるようになった「おうち時間」の楽しみ方の変化だ。家飲みの機会が増えたことで自分のペースで飲める楽しさに気づいた消費者も多く、晩酌のスタイルも多様化していました。家族と一緒に楽しむだけでなく1人でゆっくり飲む時間というぜいたくさも重要な要素になりました。
理想の家庭像という外部的な幸福の型ではなく、1人での晩酌や夫婦それぞれの時間など日常にある幸福へとブランドを昇華させようとしました。
3. 目指したのは「仕立ての良いパジャマ」
このリニューアルでまず目立ったのはパッケージデザインの変化です。ビールのパッケージデザインは横書きが基本になります。ビールが海外由来のものであることもあり英語表記でも日本語表記でも横書きが標準となっています。しかし金麦は2022年の刷新でこの定石に真っ向から立ち向かいました。ロゴを基本の横書きから縦書きに変更。消費者調査でも縦書きが支持されたこともありました。
ビール類のパッケージの常識を覆した縦書きパッケージ
縦書きのロゴと中身もリニューアルしたことを伝えるよう、素材や製法についてもその周囲に縦で表現したのも特徴です。さらにパッケージの基本を壊す取り組みは2024年のリニューアルでさらにグレードアップします。ビールのパッケージは横書きに加え、左右対称(シンメトリー)という世界共通の不文律が存在します。確かにビール売り場で見るとこのルールにのっとっている商品が目立ちます。そんな中、金麦は左右対称を捨てあえてアシンメトリー(左右非対称)にして余白のあるデザインを採用しました。
2024年のリニューアルでは、左右非対称のこれまた常識を更新したパッケージに刷新
目指したのは圧迫感のある高級スーツではなく、家でくつろぐときに着たい「仕立てのいいパジャマ」のイメージ。縦書きの落ち着いた印象に加え、アシンメトリーと余白によって日常の風景に溶け込み、オンからオフへと切り替える際のすっと力が抜けるようなリラックス感を演出しています。このイメージを表現できたのはデザイン部門を内製化しているというサントリーの強みだと思います。定石から外れながらも王道感を捨てないという相反するものを丁寧に表現していくには、デザイナーとの二人三脚が不可欠です。また、サントリーならではの「やってみなはれ」の精神から、自由な発想で挑戦できたと思います。
4. 変わらないために変わり続ける
横書きから縦書きへ、そしてアシンメトリーへ。これだけ大胆変更をしたのにもかかわらず、購入者からは「以前からこのデザインだったような気がする」という反応が多かったと聞いています。単に目を引くだけのデザイン変更ではなく、きちんと金麦ブランドのDNAを受け継いでいると受け止められていることが分かります。「変わっているのに変わっていないように見える」のはとても大事なことだと思います。生活者とほどよい距離であり続けることこそ金麦の強さだと思います。時代や生活者のライフスタイルがどんどん変わっていく中で、ほどよい距離感を保ちながら常に伴走する。そのためにはお客さまの進化に合わせて前に進み続けることが大切だと思います。ブランド側が立ち止まってずっとそこに居続けると置いていかれてしまう。当たり前で居続けるために常に進化していくことが等距離を保つためには大切だと感じました。
変わらぬ関係性を続けるために変わり続ける覚悟。それはコミュニケーション施策でも同様です。2022年からはテレビCMや広告で、柳楽優弥さんと黒木華さんを起用。家飲みを前面に打ち出した「帰れば金麦」へと刷新しました。単なるタレント変更ではなく、ブランドが定義する「幸せ」の対象を、特定の役割から「個人のリラックスした時間」へとアップデートしたことで、消費者からも大きな共感を得ることに成功しました。
5. ブランドコンセプトに直結するKPI設定
多くのブランドが短期的な売り上げやシェアに一喜一憂する中、金麦のブランドマネジメントは独特だと思います。売上などを見るのは当然だが最重視しているKPIは、ブランドコンセプトと直結する「毎日家で飲むのに最もふさわしいビール類は何か?」という問いにおける、「純粋想起」の割合だそう。2週間単位で消費者調査を行い追跡しているのも流石です。各社競合が多いビール類の中で、この指標での純粋想起は非常に高い順位をキープしているでしょう。金麦が選ばれる理由はこのコンセプトと密接に連動したイメージの醸成に成功していることが理由であることが分かります。とはいえ競争の激しい業界です。
売上に直結する短期施策も重要です。そのため対象商品の購入本数に応じて食器などがプレゼントされる「絶対もらえるキャンペーン」などの販促策も実施しています。これらの売上へのレスポンスが早い施策の場合、本来の情緒的なイメージが薄れがちで求めているイメージの純粋想起のスコアも一時的に下落するケースが多いと思います。そのため純粋想起を上げる広告施策をしっかり組み合わせ、ブランドの資産価値を高めるようにバランスを取っているんじゃないでしょうか。この長短のバランスを取り、相反する2兎を追う姿勢が金麦が選ばれ、そして売れ続ける理由だと感じます。
“思い出シリーズ”と呼ばれる季節限定シリーズも好調のようです